駿河竹千筋細工の技

古来、駿府城付近には良質の竹林が在りました。
江戸時代の初期、非番の鷹匠はその竹を使って、鷹狩りの餌を入れる籠づくりに精を出していました。
余興として細い丸ひごを使ってつくった虫籠が、家康公からとても褒められたそうです。
それが静岡の特徴的な竹細工の起源かもしれません。

国指定の伝統的工芸品にもなっている駿河竹千筋細工の特徴は、
他産地の竹製品が平らな竹ひご(平ひご)を編んで作るのとは対照的に、
細く丸く削られた竹ひご(丸ひご)を組み上げて多様な形をつくるところにあります。

明治以来、海外の博覧会に度々出品され、丸ひごを駆使した繊細優美な姿が
美術工芸的な評価を受けることで、その名を高めてきました。
一方で、国内においては花器やお盆など、上質な生活用品として親しまれています。

駿河竹千筋細工について、㈱ちくだい工房の大村氏がやわらかな笑顔で教えてくれました。

長く使ってほしいから、
厳選した竹しか使わない。

基本的な構造は単純です。
枠となる竹に穴を開け、丸ひごを通して組んでいく。
枠に使うのは孟宗竹で、丸ひごは真竹から作ります。
真竹は繊維の密度が高く弾力性があるので、折れにくく、様々な形をつくることが可能です。
竹は自分で山に入って選別して伐り出しますが、満足に使える竹は一山で10本程度ですね。
時期は11月から2月の初めまで。それ以外の時期は、虫が入ったり、カビやすかったりで材料に適しません。

唯一無二の個性は、
時間をかけてつくられる。

伐り出した竹材は煮沸してから、1ヶ月ほど天日干しで乾燥。
丸ひごは伐り出した真竹を節間で切り縦方向に割り、さらに細かく割いて平ひごをつくり、それを丸い穴に刃を付けた自作の「ひご通し」にくぐらせます。太い穴から、細い穴へ。狙った細さになるまで繰り返す。
その後、煮沸して乾燥。
手が掛かりますが、この工程こそが駿河竹千筋細工の神髄です。手を抜くわけにはいきません。
枠となる孟宗竹は、皮に近い弾力性のある部分を使用。
デザインに合わせて、熱を加えながら慎重に曲げていきます。継手の技法も独特です。

自分らしく、自由に、
使ってほしい。

駿河竹千筋細工は鑑賞用ではなく、見て楽しんで、使って満足できる実用品です。
本来の用途でなくても、使う人のアイデアで輝きを増していきます。
その人のライフスタイルに合わせて自由に使ってほしいです。
繊細な見た目ですが、実用に耐えうるだけの強さがあります。
皆さんの暮らしの彩りに、おひとつどうそ。