静岡の木工の技
徳川三代将軍家光公が駿府(現在の静岡市)に静岡浅間神社を本格的に造営するため全国各地から集められた漆工や大工・指物師・彫刻師などの名工たちが、完成後も気候や風土に恵まれた静岡に住みつき漆塗り調度品を作ったのが始まりと言われています。
以来、漆塗り製品づくりで培われた伝統技術、技巧が鏡台・針箱へと引き継がれ、後に茶箪笥などの大型の置き家具なども作られるように。東京や大阪などの都市圏に近く、港もある静岡はやがて全国でも有数の家具産地になっていきました。
現在は一貫して生産するメーカー、合理的な分業生産システムをもつ製造卸、一人でまとめ上げる職人や専門技術に特化した職人と、さまざまな人がさまざまな形で木製品に関わっています。
そんな産地で、家具の製作や修理に取り組んでいる家具職人しのはらの篠原さんにお話を伺いました。
縁で繋がったものづくりの道
できるだけ縁を繋げたい
自分の手でものを作りたい。そんな私の気持ちを繋げてくれたのは静岡の漆職人。その職人さんにメーカーさんを紹介していただく形で木工家具の世界に導かれました。
そのメーカーさんも、そのあと師事することになる師匠も和家具をメインにしていました。
海外の木材ももちろん使いますが、私は日本の木材である「栓(せん)」をよく使います。
昔は欅(けやき)の代用とされていましたが、栓も美しい木です。
その美しい木を自分の技術で暮らしに繋いで行ければと思っています。
大切なものを預かる
「修理」という仕事
家具の修理の仕事もさせていただいています。昭和の大きな木製ステレオボックスを家具に変えて欲しいという依頼もありました。
頭の中で想像し、組み立てる時間が七割。パズルであり知恵の輪。でも、修理は相手の顔や人となりがわかっているからその人の喜ぶ顔を想像するだけで楽しい仕事です。
修理の場合は、もう直したい家具がそこにあって。それを直したいという気持ちがあって。何かあったらいけない、替えがきかない、緊張感のあるものです。
大切なものを預かって、それを直すことに自分の技術が活きる。この仕事もとても素敵なものだと思っています。
技術は目的を達成する手段。
満足していただけるものを。
師匠はとても腕のある人でしたが、技術のことはあまり言われませんでした。
ただ心持ちのところ、「このつくりでお客さまが満足するか」ということをよく言われました。
私のつくったものが次の作業のために塗装屋さんや金具付けに回っても、そのままお客様の手に渡っても。どこに行ってもその先で満足してもらえることこそが私の目的です。
それは新しくものをつくっても、修理という仕事をしても同じ。満足していただけるようこれからも技術を高めていきたいと思っています。